2010年12月26日

サンタが僕らの街にやってくる(3)

ちょっとした小話を作りました。全部で3話で今回が最終回。1はこちら→。 2はこちら→


ヌルオがコーヒーを飲んでいた頃、背後に物音を感じた。今日はクリスマス、人間がこんな場所に来るはずがない。この山にも野生の動物はいるが、大人しい小動物ばかりだ。だから大丈夫だろう。彼は自分にそう言い聞かせた。

だから急に巨大なトナカイが現れたとき、彼は大声を出しそうになるのをこらえるのが精一杯だった。

鹿か?ヌルオは最初そう思ったが、首の周りの部分に生えた豊かな体毛がトナカイを連想させた。そして彼がその動物をトナカイであると確信させたのは、その動物の後ろから赤い服を着た男が現れたからだった。赤い服の男が口を開いた。

「私の名前はサンタクロース。ついさっきまではカンジという名前だったがね。わけあってサンタを名乗らせてもらっている」

「はあ。それにしてもなぜサンタがこんなところに?」

「驚いたよ。まさか私の他にこの山でキャンプをしている人間がいるとはね。君は私の第一号のお客さんというわけだ。最初だからちょっと加減が分からないが、できる限り君が望むものを贈らせてもらうつもりだ」

「はあ。それならば」

ヌルオはちょっと考えて、こう続けた。

「世界の人々に幸せを」

サンタはちょっと驚いたような顔をして、その後大笑いを始めた。

「ずいぶんスケールの大きいプレゼントだが、君にとってはずいぶんと欲のないプレゼントとも言える。分かった、最大限努力させてもらうよ。それにしてもこんなところにいる君は私が思ったよりも幸せそうだ」

「別に不幸せな訳じゃないですよ。ただ騒がしいのがちょっと苦手で」

「私と同じだな」サンタは微笑みながら続けた。

「そして私はサンタになり、君は世界を幸せにした。私達も幸せ者と言えることができるね」

サンタはトナカイに何事か耳打ちして、トナカイの引くソリに乗り込んだ。

「もし良かったら街まで送っていこうか。君へのプレゼントのお陰で、街で暴れていた奴等も帰るべき場所に帰っているだろう。私もできる限りプレゼントを配らなくちゃ。街までのタクシー代はサービスしておくよ」

「何だか悪いですね。来るときはワクワクだったけど帰りはダルくて。ありがとうございます」

「記念すべきお客さん第一号だからね。私も少しテンションが高いのかもしれない」

ヌルオが自分の荷物を片付け、ソリの後ろの荷台に乗り込むと、サンタは振り返りこう言った。


「君に会えてよかった」

−完−
posted by ヌルカン at 22:36 | 茨城 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 作り話 このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

2010年12月25日

サンタが僕らの街にやってくる(2)

ちょっとした小話を作りました。全部で3話。1はこちら→


雲一つない、星が見える良く晴れた夜だった。

ヌルオが星空を眺めながら温めたコーヒーを飲んでいたその頃、街では不穏な空気が流れていた。

クリスマス排斥運動は過激さを極め、ついにサンタクロースを討伐するまでになっていたのだ。クリスマスの事務所は暴徒と化した運動の参加者に襲われ、事務所の中は火の海となったが、サンタとトナカイは間一髪裏口から逃れることができた。サンタは派手な赤い衣装を着ていたが、街中はサンタコスで溢れており、溶け込むことは容易だった。事務所からしばらく走ったところで、安堵の息を吐きながら、サンタはプレゼントの袋からタバコを取り出し、火をつけた。大きく煙を吐き出した瞬間、後頭部に鉄パイプの衝撃を受け、力なく倒れた。

街中に溶け込めたと思われたサンタだったが、暴徒達は無差別にサンタの恰好をした人間達を襲っていたのだ。鉄パイプを持った暴徒が、不運な本物のサンタを打ち据えて満足そうに顔を上げたとき、その視界にすでにトナカイはいなかった。


トナカイは山に向かっていた。街中は危険だし、そもそもトナカイの着ぐるみを着た者はたくさんいても、本物のトナカイはそういるものではない。いずれ見つかってしまう。しかし山なら野生の動物がたくさんいる。そう踏んだトナカイは山に向かってその巨体を走らせていたのだ。

トナカイが山の中腹まで来たころ、小さな灯りを見つけた。足音を立てないように静かに近づくと、そこにはテントと、コーヒーを飲んでいる男がいた。

ゆっくり近づいてくるトナカイに気がついて、男はたいそう驚いた。人間が来ることは絶対ないと思っていたし、大人しい動物しかいないはずのこの山なら、動物は自分を怖がって近づいてこないだろうと思っていたからだ。

「私はトナカイ」

男はまた驚いたが、さっきほどではなかった。それはトナカイが自分のことをトナカイと自己紹介したことがちょっと可笑しかったからかもしれない。

トナカイは続ける。
「私はサンタに仕える者だ。そして同時にサンタを選ぶ者でもある。私の主人はつい先程やられてしまった。もうクリスマスが終わるまで時間がない。君にサンタをやってもらうしかない」

男は思った。クリスマスから離れてここまで来たが、そこで言葉を話す動物からサンタになれと言われている。これで断ったら、この面白い運命を否定してしまうことになる。今まで平凡な人生を歩んできた自分だが、そんな自分を歯がゆくも思っていた。そんな自分に最大のチャンスが訪れたんじゃないかと思ったのだ。

「わかりました。やらせてもらいます、そのサンタとやらを」

男がトナカイの満足気な表情を認識したかどうかは分からないが、トナカイはまた言葉を発した。

「君に会えてよかった」


−3に続く−
posted by ヌルカン at 22:29 | 茨城 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 作り話 このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

2010年12月24日

サンタが僕らの街にやってくる

20XX年。現代のクリスマスが商業主義に冒されているということに端を発したクリスマス排斥運動は、聖職者の一部とインターネットユーザーの一部を中心にして、より過激さを増していった。

テレビで放送される排斥運動のニュースで眺めていたヌルオは、アパートの中で一人ある準備をしていた。彼の部屋には寝袋や数日間の食料、ランタンなどが並べられていた。

「あいつら何も分かっちゃいない。その運動をすること自体が、クリスマスに心を奪われているってことに。クリスマスというのは空気なんだよ。街に出たらそれを吸い込んでしまう。部屋の中にいたってダメだ。インターネットの関連サイトから空気は流れ込んでくる。あの浮かれた空気を吸わないためにはどうすればいいか。簡単だ。クリスマスの空気が流れてこないところまで行くしかない。」

長い独り言を終えた彼は、手元にあった地図の一点を指さした。その指さした先は、近所の山にある、小さなキャンプ場だった。

そう、彼は24日と25日の2日間、街にクリスマスの空気が広がるピークの期間、森の中で独りキャンプをして過ごす計画を立てていたのだ。

キャンプ場といっても管理者がいるような所ではなく、木々を伐採して小さな広場になっているだけの所だ。近くに道路もなく、冬の間はまず人が立ち寄ることのない場所である。ヌルオはクリスマス期間を過ごす場所を、そこに選んだのだ。


−続く−
posted by ヌルカン at 18:11 | 茨城 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 作り話 このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

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